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オーブランの少女 (ミステリ・フロンティア)

著者: 深緑 野分

評価: 3.0

読了日: 2016/07/31

投稿日: 2019/10/09

【女性作家らしい感性豊かで瑞々しい描写】
 深緑野分さんは初読書になります。
 この作品、なかなか評判が良いようなので図書館から借りてきました。
 それでは収録作すべてをご紹介。

○ オーブランの少女
 オーブランには人々の目を楽しませる大変美しい庭園がありました。
 その庭園は二人の老婆が管理していたのですが、庭の奥には門扉で堅く閉ざされたもう一つの庭があったのでした。
 ある時、その奥の庭で殺人事件が起きました。
 殺されたのは管理人の老婆の一人でした。
 殺した者は、痩せこけて何年も陽に当たっていなかったように真っ白になった、ほとんど裸同然の、かろうじてこれも老婆と分かる者でした。
 殺された老婆の傍には、パンと水が入った籠が落ちていました。
 一体、どういうことがあったというのでしょう?
 この事件から三年後、生き残った老婆から渡されたという手記を手に入れた作中の著者がこの秘密を綴ります。
 何とも魅力的な設定で、描写も美しいのですが、設定の説得力や動機付け等にやや弱いところがあるかな?
 いっそのこと、もっと現実離れした幻想的な作品にしてしまった方が良かったように感じました。

○ 仮面
 ルナール・ブルー(青い狐)という名前の派手な酒場がありました。
 そこではフレンチ・カンカンなどが踊られ、にぎやかな場所でした。
 貧しい医師のアトキンソンは、ルナール・ブルーの経営者の主治医だったのですが、どうも見立てを誤ったらしく、それほど深刻な病状とは思っていなかったのに、経営者は日頃の不摂生が祟って亡くなってしまったのです。
 アトキンソンは、経営者の生前、経営者から誘われて一度だけルナール・ブルーの舞台を見たことがありました。
 それは、フレンチ・カンカンなどではなく、少女たちによる舞踏劇でした。
 その中の一人の少女に、アトキンソンは魅入られてしまったのですね。
 その少女は、経営者の家に仕える幼いメイドの妹でした。
 経営者の死後、その妻が遺産を相続したのですが、この妻は婦人会に熱心に参加し、社会改革に入れあげている女性でした。
 ルナール・ブルーのような風紀の悪い店はたたんでしまい、建物は婦人会に寄付すると言い出したのですね。
 そんなことになると、あの少女が立てる舞台がなくなってしまいます。
 また、ルナール・ブルーで占いをしていた謎めいた女性も失業してしまうということで、アトキンソンに白羽の矢が立てられました。
 経営者の相続人である妻を殺して欲しいと。
 そうすれば、あの少女はあなたの家で暮らさせてあげるからと。

○ 大雨とトマト
 とある町中の洋食店には奇妙な常連客がいました。
 今日も大雨だというのにやって来ています。
 いつも一番安いランチを注文し、時間をかけて、でも何だか不味そうに食べているのです。
 身なりも、くたびれたスーツは着ていますので、どこかの勤め人なのかなとも思えるのですが、それ程裕福そうではありません。
 でも、小銭が多いものの、支払いはしてくれますので問題は無いのですが……。
 いい加減店を閉めたいと思っているマスターでしたが、そこにまた一人客が来てしまいました。
 こんな天気だというのに……内心、舌打ちをするマスターでした。
 ずぶぬれになって入ってきた客は、マスターの息子と同年齢位の少女でした。
 注文を聞くと、トマトサラダだけとのこと。
 メニューには無いけれど、作ってやるか。
 そのうち、その少女は泣き出してしまうのです。
 訳を聞くと「……父親を探しに」と。
 え? 少女を見直したマスターはぎょっとします。
 あの女に似ている……。
 もう随分昔、妻が息子を妊娠中だったころ、マスターが一度だけ浮気をした女性がいました。
 そう言われれば、あの時の女性に似ている……。

○ 片想い
 高等女学校ができたばかりの当時の時代を背景にして、その寄宿舎を舞台にした非常に乙女っぽい作品です。
 群馬から上京してきた、がっちり型体型の「岩様」と、その親友で、いかにも深窓の令嬢という風の環が主人公になるのですが、環が抱えていた秘密がテーマになります。
 ミステリ風味を利かせていて、「岩様」が炯眼にもその秘密を見抜くのですね。
 女子校寄宿舎ならではの、「エス」とか手紙のやり取りとか、そんな世界が描かれます。

○ 氷の皇国
 ある北方の小さな漁村で、漁師が首のない、真っ黒に変色した死体を引き揚げました。
 その死体は、背中に×の字が書かれた服を着せられており、手には硝子球が握られていました。
 村人達は、この死体の来歴についてあれこれ話し合うのですが、その真実を村に来ていた吟遊詩人が語り出すというお話。
 これもミステリ風味になっており、平凡なトリックながらも、その段取りはなかなかよく考えられていると感じました。
 ただ、やはりミステリとして読んでしまうと色々と問題が……。

 冒頭に書いたように、その描写力、叙情性はなかなかのものではないかと感じました。
 ただ、やや詰めに甘さがあるようにも思います。
 特に、ミステリ仕立てになっている作品は、ミステリ好きの読者(特に本格物、論理的な作品が好きな読者)からするとちょっと点が辛くなってしまうかもしれません。
 ですから、本作は、ミステリとしては読まない方が良いでしょう。
 ファンタジックな描写はよく書けていると思うので、むしろそちらの方に注力した作品を書かれると良いのではないかと思いました。
 乾石智子さん、ひいては山尾悠子さんや皆川博子さん(実は、皆川さんのミステリもあんまり上手くないと思うのですけれどね)のようになっていただけると良いなぁと期待します。


    ef177さんの読書レビュー 「オーブランの少女 (ミステリ・フロンティア)」 | 読書ログ

    プロフィール
    ニックネーム:ef177
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    自己紹介:
    幻想文学、ミステリ、SF、美術なども含めて怪しいものが大好きです。
    ご紹介ベースのレビューが基本ですが読んで頂けたらうれしいです。

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