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日の名残り

著者: 土屋政雄 , カズオ・イシグロ

出版社:早川書房 (2001/05)

評価: 4.0

読了日: 2018/05/14

投稿日: 2018/05/16

この本は、「古き良き時代」を懐古するという退屈な小説では決してなく、単純に泣けるとか笑えるとかいう類の作品でもありません。ただ静かに、しかしとても心の奥深いところに語りかけてくる作品です。特に終盤Mr.スティーブンスが人生を振り返るような部分にはジワッとくるものがあります。

Mr.スティーブンスが語る過去のエピソードの中に見え隠れするのは、徹底したプロ意識とそれに対する自問自答であるような気がします。でもMr.スティーブンスはMr.スティーブンスであって、そのようにしか生きられない人なのだと思いますし、その中でこそ高貴なる品格を失わなずに生きることが彼の生き様だったのだろうなあと思います。

誰しもきっとある程度の年齢になれば「あの時こうしていれば」とか「他に違う生き方があったかもしれない」とどこかで思うところがあるのではないでしょうか。

Mr.スティーブンスも多分ちょっとだけそう思っていながらも、最後に「これで良かったんだ」と、そして「自分の生き方は間違っていなかった」と振り返ります。
それは彼が彼自身である理由を見失わずに、ストイックに生きたからこそそう思えるのでしょう。

きっとMr.スティーブンスのように、いつか見知らぬ海岸沿いでそんなことをつぶやけることが幸せなことなのかもしれません。

設定が現在の日本から遠いのは確かです。例えばMr.スティーブンスのような「執事」はもう英国にさえいないのかもしれず、もしかしたら日本の侍のように、本当にその人達が過去にどんな精神性を持っていたのかは誰にもわからないような、もう消えた人種なのかもしれない。時代も国も違うし、少なくとも自分の周りに「〜ではありますまいか。」なんて言う人はいない。

でも300ページ以上に亘るMr.スティーブンスの語りかけに耳を傾けていると、こんなことを思うのです。「自分はこうあらねばならない」と思って生きている人って、とても一生懸命で、真面目で真っ直ぐで、だからとても不器用で頑固で誤解されることもあったりして、人生損してるような感じですよね。で、大抵アメリカンな時代感覚からかけ離れていたりしますよね。良い悪いとか好き嫌いではなくて、いますよね、そういう人。

自分はそこまでストイックに生きていないと思うのだけれど、少なくとも後悔はしないように、できるだけ自分にできることや自分が大切にすることを見失わないように、生きていたいと思うのです。

そんなことを、執事というペルソナに当てはめて語らせるカズオ・イシグロさんはさすがです。

他の方のレビューで翻訳が良いと書かれていたのですが、期待を裏切らないきれいな言葉ばかりでした。堅苦しくならずに品格を維持する語りは本当に凄いと思います。
思わず、「〜ではありますまいか。」っていう言い回しが日常でも口をついて出てきそうなほどに、素敵な翻訳でした。(皮肉ではありません笑)


    lafieさんの読書レビュー 「日の名残り」 | 読書ログ

    プロフィール
    ニックネーム:lafie
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    レビュー件数: 45 件

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    村上春樹さんが大好きです。

    2017年あたりからの読書つけてます。

    それより昔読んだ本はブログにも感想書いてます。
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    ブログの方も更新しないといけないなーなんて思いながら本を読んでます。

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