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自由への大いなる歩み―非暴力で闘った黒人たち (岩波新書 青版)

著者: M.L.キング

評価: 5.0

読了日: 2018/01/12

投稿日: 2018/01/12

マーティン・ルーサー・キングの自伝です。バス乗車ボイコット運動が成功し、モントゴメリーが変わりつつあることを感じながらも、まだ黒人(本文では二グロと書かれている)たちへの偏見が変わらずにある現状を分析し、運動を粘り強く続ける決意を述べて終わっている。黒人の公民権運動に指導し、あの有名なワシントン大行進でI have a dream の演説を行ったこと、またその後、凶弾に倒れたことを知っている私たちの時点から見ると、中間報告のような本ということになるだろう。この本を読むと、キング牧師が一貫して非暴力という運動の方針を貫いたことが分かる。そしてそれはガンジーの運動を学んで応用したものではあるが、キング牧師の内面的な志としては、キリスト教精神に基づくものであることは間違いない。このように書くとキング牧師が超人的な人物で、奇跡のようなお話として感じられるかもしれないが、本書に描かれているのはむしろキング牧師が自らの弱さと向き合い、悩みながら決断を下していく姿だ。
 モントゴメリーでは黒人と白人の座席が分けられ、どんなに空いていても黒人は白人の席に座ることは許されなかった。また、運転手は全員白人で、黒人に対して失礼な態度をとり、白人が後から乗ってきて、席がなければ、黒人を立たせて席を確保するようなことをしていた。しかし一人の婦人(パークス婦人)が席を白人に譲ることを拒否したことから、この運動が始まっていく。キング牧師はこのように書いている。「彼女は、過去の日々に蓄積された屈辱とまだ生まれてこない世代の無限の希望のために、あの座席に坐って動こうとしなかったのだ。彼女は、歴史の力と運命の力の犠牲で、「ツァイトガイスト」つまり時代精神によっていわばあの座席にすえつけられたのだった。パークス婦人は逮捕された。バスボイコットの気運が高まる。キング牧師たちは話し合い、バスボイコット運動を始めていく。ここからの経緯は本書を読んで欲しいと思う。そうすんなりと物事が運んだわけではないことが分かるだろう。また、その運動の最中にキング牧師自身が何度も気弱になりかけ、再び力を取り戻したりしている人間的な姿を見るだろう。白人たちは無教養で愚かな黒人が組織的な運動を継続できるはずがないと高をくくっていた。キング牧師を初めとする代表者たちの誠実な態度とまともに取り合おうとしないバス会社や市長たちの不誠実さが対比的な描かれている。結局こうした白人たちの頑なな態度が運動を長引かせていく。お互いに車を出し合って職場への往復をしたり、バスを使わずに歩いたりすることで、バス会社は経済的なダメージを蓄積していった。一年以上にわたる運動は、最高裁判所の命令によってバス内での座席分離が違法とされるまで続く。キング牧師は黒人たちに非暴力を貫くこと、闘いに勝利したからと白人たちにおごった態度をとらないことを何度も何度も語り、黒人たちは紳士的な態度で勝利をつかみ取っていくのである。しかし白人たちの暴力的な攻撃は完全にはなくならない。キング牧師の目は貧しい無教育な白人にも向けられている。彼らを巧みに操作して黒人憎悪に駆り立てている権力者がいるのである。この本は過去を語った物語ではない。こうした差別に絡む運動のあらゆる側面が見えてくるからである。貧困が憎悪を生み、テロ行為に駆り立てられる現代、キング牧師の愛に基盤をおいた非暴力的抵抗という理論が省みられるべきだと思う。果たして現代にこうした運動に耐えられる指導者が現れるだろうか。


    nekotakaさんの読書レビュー 「自由への大いなる歩み―非暴力で闘った黒人たち (岩波新書 青版)」 | 読書ログ

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