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110件 (全54件)
聖女チェレステ団の悪童
孤児を主人公にした文学作品って結構あるもんですよね。 思うに、やっぱり我々は、孤児の話が好きなんだろうって思いますね。 なぜかと考えてみると、それはひとつには、大抵の人は主人公が成長する話... by dreamer さん

月うさぎ 様 世界中の子供たちを魅了してやまない児童文学には、考えてみると孤児の物語がほんとに多いんですよね。 それも、素晴らしい内容の作品が。 これらの作品が愛される理由について、レビューでも少し触れましたが、古い価値観の中で女の子を活躍させるには、やっぱり親の存在が邪魔だからなんでしょうね。 「オリバー・ツゥイスト」「赤毛のアン」「ジェイン・エア」、そして女の子だったら必ず読んだと思う「あしながおじさん」----数えあげたらきりがありませんね。 特にジーン・ウェブスターの「あしながおじさん」は、恐らく今も世界中で愛されていると思いますね。 孤児院で育った語り手のジュディことジルーシャ・アボットの快活な性格に加え、独立の第一歩を踏み出した女の子の物語らしい細部の輝きがありましたね。 女子大寮での生活。初めて読んだ本。農園で過ごす休暇。買った物のリスト-------。 ジュディの唯一の不満は、スミス氏からの返事が一通も来ないことでしたが、大学生活のあれこれを報告する彼女の筆は、未知の世界にふれた驚きと喜びとにあふれ----もう思い出しただけでも子供の頃に読んだ時の記憶が蘇ってきますね。 でも、やっばり私が一番魅かれる児童文学は、アストリッド・リンドグレーンの「長くつ下のピッピ」なんですね。 なぜかと言うと、この作品は「赤毛のアン」や「あしながおじさん」などの孤児を主人公とした小説のパロディになっていると思うんですね。 そのシンボルが、足の二倍もあるピッピの靴なんですね。 シンデレラの小さな靴に象徴されるように、なにかと行動を制限されてきた女の子。 けれど、ピッピは言うんですね。「これなら足の指がよくうごかせるもの!」と。 大きな靴は、自由の証になっているんですね。 こんな世界一強い女の子のピッピですが、この作品はピッピの内面にひそむ負の側面もきっちりと描いているんですね。そこに、私としては魅かれるんですね。 最終章でピッピは、「わたし、大きくなったら、海賊になるわ!」/ピッピはそうさけんでいました。/「あんたたちも、海賊になる?」と隣に住むトミーとアンニカ兄妹と迎えにきた父親の背中に向かって言い放ちます。 母とは赤ん坊の頃に死に別れ、船長だった父は嵐で遭難。 だが、父はどこかの島に流れ着いて王様になったと信じるピッピ。 口うるさい親はいない。学校にも行かない。大人を向こうに回して突飛な行動に出るピッピは、子供たちの夢を体現した存在なんだと思うんですね。 しかし、大人から見れば、ピッピは共同体と相容れない虚言癖の強い子。 ピッピが言った「海賊になる」のひと言には、そんなピッピの寂しさと世界への微かな敵意がにじんでいると思うんですね。 それはまた、「あんたたちも戦え」と鼓舞しているようにも見えるんですね。 最強の女の子の孤独がギュッと凝縮された、ちょっと切ないラストシーンなんですね。 このラストシーンの切なさは、大人になった今でもいつまでも心の中に残り続けているような気がします。

2018/08/17
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たけくらべ
樋口一葉の「たけくらべ」を再読しました。 この小説は、恋愛というには、あまりに幼く、淡く、しかも古風な物語です。 やがては遊女になる運命の美少女・美登利と寺の跡取り息子・信如との、おそろし... by dreamer さん

あすか 様 樋口一葉のこの「たけくらべ」については、山梨日日新聞社が「樋口一葉-現代語訳」(山日ライブラリー)というのを、山梨在住の歌人・秋山佐和子の現代語訳で出版していて、この本がとても読みやすくて、原文の詩情や情緒を色濃く残していて、お薦めですよ。 他にも、河出文庫の「たけくらべ 現代語訳・樋口一葉」という本が、作家の松浦理英子の現代語訳で出版されていますが、ちょっと読んでみましたが、訳者のこの作品に対するリスペクトが全く感じられず、なおかつ、非常に読みづらいものになっていますので、これは避けた方がいいと思います。 以上、参考にしていただけたら幸いです。

2018/08/03
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洗面器の音楽
今回読了した藤谷治の「洗面器の音楽」は、不思議な物語だ。 いや、不思議ではないような。不可解? 不穏? 不作法? いずれにしても、ここにあるのは"不"がつく何かであるのは間違いない。 ... by dreamer さん

月うさぎ 様 この「洗面器の音楽」という、世にも奇妙な、今までの小説の概念を覆すような小説の作者・藤谷治の名前を初めて知ったのは、彼の「いつか棺桶はやってくる」という小説によってでした。 とにかく、この小説を読み終えた時には、何かガツンとやられてしまったという、今までにない新鮮な、それこそ、これまた奇妙な感覚に満たされたものでした。 最近、作家のいしいしんじと共に、無性に気になる作家の一人になっており、今後も彼の作品を追いかけていきたいと思っています。

2018/08/01
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青い鳥
クリスマスイブ。 チルチルとミチルの兄妹の前に、妖女があらわれます。 妖女のわずらっている小さい娘のために、幸せの青い鳥を探すこととなった二人。 兄妹はイヌ、ネコ、パン、火、砂糖、水、牛乳と一緒... by あすか さん

あすか 様 あすかさんが、今回読まれたモーリス・メーテルリンクの「青い鳥」は、私も何度も読んでいる童話劇の戯曲ですので、とても幸せな気持ちでレビューを読まさせていただきました。 とにかく、登場人物が多い戯曲で、犬や猫、砂糖やパン、果ては"母の愛"みたいな抽象的なものにまで、肉体と肉声を与えているのが、とても前衛的だなと思うんですね。 考えてみれば、メーテルリンクという作家は、象徴主義の作家なので、それも当然なのかも知れませんが。 この作品は、一般的には子供向けの童話劇の戯曲だと思われていて、「青い鳥は幸福のメタファーです」というような解釈が多いようですが、私は、本当は大人の鑑賞にも耐え得る内容になっていると思っています。 一般的には、教育劇、教訓劇として読まれていると思うんですね。 「他者を幸福にすることが本当の幸福なんだ」という読み方ですね。 せっかく見つけた青い鳥を、近所の病気の女の子にあげてしまうシーンが象徴的で、その後、最後の最後で青い鳥が逃げてしまいますよね。 そうすると、戯曲なので、チルチルが観客に向かって「どなたかあの鳥を見つけた方は、どうぞぼくたちに返してください」と言うんですね。 つまり、舞台劇を観ている観客もまた、青い鳥をチルチルに返すことで幸福になるということなんですね。 そういう「青い鳥=幸福」という読まれ方と共に、私が思っているのは、この青い鳥というのは、「賢者の石」みたいなものではないかと思うんですね。 この世の中の、目には見えない神秘的なものも全部含めて、全部見えてしまう力、そういうものを探しに行くお話なのではないかと思いますね。 この物語の始めのほうで、青い鳥クエストの旅に兄妹を誘う妖女が、「お前なんかに見えるものかね。それじゃわたしはどう見えるね?」と訊く場面がありますよね。 つまり、最初は外見にとらわれて物事の本当の姿を見ることのできなかったチルチルの、"魂の成長"を描いた戯曲ではないかと思うんですね。 それから、著者のメーテルリンクの中には「幸せというのは悲しい形をしているものなんだ」という、ある種の悲観論みたいなものもあるような気がするんですね。 その象徴的なシーンが、これから生まれゆく子供たちがいる「未来の王国」に用意されていて、恋人同士が離れ離れになる間際に「ぼくはいつだってきみを愛してるよ」、「あたしは一番悲しいものになるでしょう。それであんたはあたしがわかるはずよ」という言葉を交わすんですね。 このシーンが、私は特に好きなんですね。 とにかく、この戯曲は読む人によって、いろんな見方、解釈ができる作品で、読むたびに多くの示唆を与えてくれる作品だと思いますね。

2018/07/30
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バーニング・ワイヤー
ニューヨーク市で、送電システムの異常によって発生した爆発的な放電が、路線バスを襲い、死人が出る騒ぎが起きた。 やがて、ニューヨーク市への送電を50%に削減せよ、さもなくば新たな死人が出る----... by dreamer さん

アスラン 様 コメントありがとうございます。 このリンカーン・ライムシリーズは、ミステリ好き、いや本好きなら絶対はずせないシリーズ物だと思いますよ。 このリンカーン・ライムは、ある事故で首の上と左手の薬指しか動かせなくなった男で、彼が抜群の推理力で次々と不可能な難事件を推理して解決していくという、ミステリのジャンルで言えば「安楽椅子探偵」ものになるんですね。 犯行現場に残った、ほんのわずかな証拠を基に、PCやいろんな先端機器を使って、先の展開が全く読めないような難事件を、読んでいる自分の予想を遥かに上回る名推理にて解決へと導いていく素晴らしさ、そして、このシリーズの定番であるドンデン返しが待ち受けているという凄さ。 もうミステリ好きにはたまらないシリーズなんですね。 そこで、アスランさんからのお尋ねの件ですが、あまり参考にはならないかも知れませんが、私のお薦めを書いてみますね。 作品の出来とかというよりは、リンカーン・ライムがこのシリーズに初登場した「ボーン・コレクター」から読まれるのがいいかと思います。 この作品は、デンゼル・ワシントン主演、アンジェリーナ・ジョリー共演で映画化もされていますが、私もかつてレビューを書いていますので、よかったら目を通していただけると幸いです。 さて次に、このシリーズお薦めのベスト3としては、以下のように思っています。 3位:「ウォッチメイカー」 2位:「コフィン・ダンサー」 1位:「ソウル・コレクター」

2018/07/27
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ナポレオン狂
 阿刀田高さんの文章は、妙な熱気のようなものがあります。 この『ナポレオン狂』は、昭和40~50年代に書かれた短篇小説集です。  13編の短篇ですが、どの短篇も最後の数行で「あっ!」という逆転... by 夕暮れ さん

夕暮れ 様 いつも読み応えのある、素敵なレビューを読ませていただいています。 その、いつも鋭く、示唆に富んだ、斬新な見方には敬服しています。 阿刀田高という作家は、私も好きな作家のうちのひとりで、いつもゾクッとさせる"奇妙な味"の小説を書く、短篇小説の名手だという印象を、強く持っています。 短篇小説という短い作品の中に、ブラックユーモア、諧謔、風刺を効かせた、彼の作風に魅かれるんですね。 この短篇小説には、長篇小説と違って情報という名の余分な詰め物がない分だけ、小説としての純度が高く、それだけ純粋に小説を楽しむことができるのではないかと思っています。 そして、阿刀田高の持ち味である、"奇妙な味"こそ、ミステリのトリックのある種の行き詰まりを打開する新しい方法になっているのではないかと思っています。 加えて、この作家には、ブラック・ユーモアの他にキラリと光る何かがあるような気もします。 その何かというのは、例えば、この「ナポレオン狂」の結末に見るように、残虐性や暗さのないことで、どこまでもクールで陰惨さがないんですね。

2018/07/04
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声の網
それは、コンピュータが、人間の記憶、日常の雑事、医学までも全て代行してくれるようになった、未来のある時代のことだった。 ある民芸店の主人は、突然、「これから強盗が入るぞ」という電話を受けた。... by dreamer さん

月うさぎ 様 いつも含蓄のある、示唆に富んだコメントをいただき、ありがとうございます。 確かに、月うさぎさんが言われる通り、この小説が発表された1970年当時において、この小説の真の恐ろしさは、実感として受け止められなかったのかもしれませんね。 家庭の電話すら完全に普及していなかった時代に、電話ネットワーク網による管理社会、つまりインターネット管理社会の戦慄すべき恐怖を描いて、この小説は物凄く時代を先取りしていて、現代に生きる我々の状況、ひいては今後の未来社会の在り方を考える上でも、是非とも多くの人に読んでもらいたい作品ですよね。

2018/06/25
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ローマ帽子の秘密
 シリーズものでは何が一番?と言われたら即、クィーンの国名シリーズと答えます。 何十年ぶりかの新訳で再読。私が最初読んだ時は、~の謎、というタイトルでした。  一番何が好き、と聞かれると『ギリ... by 夕暮れ さん

夕暮れ 様 よく海外ミステリのベストテンという時に、必ずトップを争うのがエラリー・クイーンの「Yの悲劇」と「Xの悲劇」ですね。 これはミステリ好きの間で意見が分かれるところでしょうが、クイーンらしさで言えば「Xの悲劇」でしょうが、私は個人的には、舞台設定と犯人の意外性で「Yの悲劇」の方が好きですね。 エラリー・クイーンは、夕暮れさんもレビューに書かれてあるように、1929年に「ローマ帽子の謎」でデビューしていますが、私見では最初の頃は、ヴァン・ダインの影響を受けつつも、次第に独自のスタイルを確立していったと思います。 クイーンの最大の特徴は、フェアプレイと整然とした論理にあると私は思っています。読者にはすべての手掛かりを提示して、作者との知恵比べに挑戦させる。 小説の面白さに、パズルという知的要素を盛り込んだところが斬新だったんだろうと思います。真相が明らかになっていく過程で、論理によるサスペンスを演出できるのは、ひょっとしたらクイーンだけかもしれません。 そして、魅力的な謎と、完璧なまでの論理によって、クイーンの"国名シリーズ"は、本格ミステリのバイブルになったのだと思います。 このシリーズの中から、1本を選べと言われたら、非常に難しいのですが、「チャイナ橙の謎」のさかさまの謎もおさえておきたいし、夕暮れさんが一番お好きだという「ギリシャ棺の謎」の圧倒的なボリューム感も捨て難いですね。 しかし、私が一番好きなのは、敢えてあげれば「エジプト十字架の謎」ですね。クイーンには珍しいスリリングな犯人追跡と、ヨードチンキの一壜から組み立てられる論理が、非常にシンプルで鮮やかだからです。 とにかく、エラリー・クイーンの作品は、何を読んでも面白い。つまらないものはありませんね。

2018/06/07
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トッカン
高殿円の「トッカン 特別国税徴収官」が面白い。 この作品は、税務署の職員の中でもエリートという、東京国税局の京橋地区税務署に勤務する、鏡雅愛という特別国税徴収官、略して特官(トッカン)がいて... by dreamer さん

ice 様 コメント、ありがとうございます。 この小説は、ある意味、最近はやりの"お仕事小説"なんですね。このお仕事小説で取り上げる仕事というのは、特殊であればあるほど、面白いと思います。 読者があまり知らない職業だと、その職業はどういうものなのかっていうのを、具体的に紹介する、情報小説にもなるんですよね。 この作品は、主人公の新米徴収官の鈴宮深樹が、一生懸命頑張って、少しずつ成長していく姿が描かれていて、実に爽やかなんですね。 ある種、ユーモア小説というか、コミカルな要素も持っているんですが、ただ、そのコミカルな部分、ユーモアの味付けがちょっと気になるところも、正直ありましたね。 実は、ラストで、このヒロインが上司の鏡トッカンに、ちょっと"ほの字"みたいな話が書かれているんですが、そういうものが無い関係だから、いいわけで、つまり、そのうるさい上司に新米が鍛えられるというだけなのが。 そこに男女間の胸キュンの感情をちよっと匂わせるというのは、少し蛇足ではなかったのかなと思いましたね。ま、この点は意見が分かれるところなんでしょうが。恐らく、出版元の編集者が、多くの読者に読んでもらおうと、リクエストしたのかもしれませんね。

2018/06/06
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 深紅の薔薇の花びらのような物語。 主人公が出合った夫妻、2人に恋をする、そして底なし沼に落ちていく怯えと歓びが濃密な耽美的な文章で綴られます。  時代は1970年。 時は学生運動が盛んで騒... by 夕暮れ さん

夕暮れ 様 夕暮れさんの鋭く、味わいがあり、深みのあるレビューをいつも楽しく読ませていただいています。 小池真理子さんの「恋」は、私も大好きな小説で、夕暮れさんの素敵なレビューに魅了されました。私はこの作品のテーマは、タイトルに集約されている通り「恋心」ではないかと思っています。ここでいう恋心とは、人を恋しく思う心、つまり相手とのつながりを求める気持ちではないかと-----。 この物語の語り手であり、主人公である矢野布美子は、常に虚無にさいなまれていると思うんですね。狂乱めいた学生運動と一般社会との間、学生運動にのめり込む唐木と布美子との間-----そこに横たわるもの。 双方の間にあって、断絶を生むもの。さらに言えば、「事件」と同日に起こった、テレビ画面の向こうの浅間山荘事件と実社会との間にも存在したそれは、まさしく虚無であったと。つかみ難い、あまりに虚ろな感覚は、しかし厳然と両者を断ち切ってしまう。その断絶感は、布美子を孤独な状態以上に不安定にしているのだと思います。 そして、片瀬と妻の雛子との出会い、恋心をわきたたせる交わりが、布美子の生活から虚無をぬぐい去った大きな変化点になったのだと思います。その関係は、未知なる楽しさという領分を越え、布美子にとっては生きる糧にさえなっていくんですね。 他人の夫との情事、その妻との同性愛といった背徳的な行為が、悦びを生んだのではないんですね。布美子にとって、彼らとともに在り、精神的につながっていることこそが、最大の悦びだったのではないかと思いますね。だからこそ、結びつきをほころばせる闖入者-----忘れていた虚無を思い起こさせる男の存在は、決して許されるべきものではなかったんですね。 愉悦にも苦痛にも転化する恋心は、一般的なイメージの恋愛小説とは全く異なる物語を紡ぎ出していると思いますね。そんな物語のあらゆる局面における布美子の「恋心」の変遷が、この作品の重要な読みどころだと思います。 また、この作品は、"心理サスペンス"としてのミステリとしての作りも、非常にうまいと思います。ひとりの女子大生が銃弾を放つに至った動機に収斂していく、サスペンスあふれる構成や、退廃的な性生活を送る片瀬と雛子の関係が反転する意外性の演出も、冴えわたっており、ミステリの様式美を求める、私のようなミステリ好きをも贅沢な気分にさせずにはおきません。 つまるところ、この作品はどこから切り取っても、文学的香気に満ちあふれた、芳醇な味わいのある極上の小説だと思いますね。 作家の小池真理子さんは、もともとエッセイストとして「知的悪女のすすめ」を書き、この本がいきなり大ベストセラーとなり、時代の寵児になったのですが、エッセイストとしてのイメージと本来の自分とのギャップに苦しみ、試行錯誤の末に自分の進むべき道として選んだのがミステリというジャンルだったんですね。 彼女のミステリとしての作風は、フランスの作家カトリーヌ・アルレーから多大な影響を受け、日常に直結した不安感を醸し出す作品で、"心理サスペンス"と呼ばれる分野を開拓したのだと思っています。そして、小説家・小池真理子の名を広く世に知らしめたのが、この直木賞受賞作の「恋」だと思います。

2018/06/01
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